エントロピー学会 第20回シンポジウム

9月22日(日) シンポジウムV:環境NPOの技

市民活動からNPO法人へ

NPO法人エコけん 理事長    清水 佳香

 1.団体紹介
 福岡市と北九州市の間にあります古賀市から参りました清水と申します。環境分野のNPO法人、エコけんの代表をしております。エコけんは、昨年12月に法人格を取得したばかりのひよっこNPOなのですが、その設立の際に中村先生の地域循環研究所に支援していただきました。先生のところとはそれ以来のお付き合いです。

 ひよっこゆえに、日々、じたばたしておりまして、先生にもしょっちゅう励ましてもらっています。つい先日も、「生みのエネルギーを感じるから、まだ、いける。」と励まされたばかりです。ひよっこにとってこういうスーパーバイザーの存在はありがたいと思っています。先日、先生に指摘され、「私たちは今、何を生もうとしているのか」、考えてみました。それは、私たちが持つ環境NPOとしての技を考えることになるかのではないかと思ったからです。 

 エコけんの活動のきっかけは、今から3年前、住まいからおよそ1kmのところに焼却場の建設が持ち上がったことに始まります。当初新しい焼却場は、隣町にある焼却場に立て直される予定でしたので、正直なところ、私たちにとって切実な問題ではありませんでした。ところが、建設予定変更の新聞のすっぱ抜きに始まり、降ってわいた「災難」に、怒りや困惑や悲しみや恐怖など、一通り味わいました。そんな中、現副理事渡邊の呼びかけに、数人が集まってやり始めたのは、「とにかく、なるべくたくさんの情報を集めて、現状を把握しよう」ということでした。自分で判断できるほどの情報を、何も持っていない、という事に気づいたからです。地域の混乱の中での作業でしたので、今振り返ればよくこんなことができたものだ、とおかしくさえあるのですが、その時は無我夢中でした。そうするうちにわかってきたのは、@技術的には焼却という方法ではないごみ処理が可能なことA現工場の惨状と行政の仕事に関すること、そしてBこれらの問題を生む背景として、自らを含めた市民の無関心にも責があるのではないか、ということでした。

 それから、提案小冊子を作ったり発信ニュースを作成していきました。また、一方で現工場から排出されている多量のダイオキシンを少しでも減らそうと、廃プラスチックの自主回収やごみ減量の実践活動を始めました。
 現在の活動内容は組織図からご想像いただきたいと思います。

組織図

本 会

部 会

               

                 

    

2.私たちの培った「技」
 エコけんの特徴は、今、申し上げました経緯からもお察しいただけるように、それまで市民活動の経験もない、社会的肩書きもない、専門的な知識もない、ないないづくしの普通の主婦主体の団体が、切実な動機により、何かに気づき、何かを変えようと、実践活動をしつつ、生活者の実感やリアリティを武器に、対話の中から相手の変化を待ち、自らも育つ、という手法でここまでやってきた、というところにあるのではないかとおもいます。結果として、この手法は、徹底的なボトムアップを狙ったやり方であり、公平性を重視して事業展開する行政には不得意な、NPOだからこそ持てる技の一つを磨くことになったのではないかと思っています。
 その技について、もう少し具体的に、いくつかあげてみたいと思います。

@異なるセクターをつなぐ

 一つ目は異なるセクターをつなぐという事です。
 先に申し上げました、廃プラスチックの資源化のための回収は、私たちの住む町にはルートがありませんでした。ルートを開くためには、法的整理・金銭的支援者としての行政、搬入先の事業者、回収に参加してもらう市民、とそれぞれのセクターと、小さなコンセンサスをとり続ける、ということが不可欠でした。この際、相手に一方的に求めたり、非難しても何も始まりません。ひたすら相手の意向を聞き、自分達の意向を伝え、すりあわせる事の繰り返しです。
 これが私たちが集めているプラスチックです。
 これを今の焼却施設で燃やしたくない、と思いました。そのために搬入先を探し、行政に処理費用負担をお願いに行きます。事業者さんに搬入の条件を聞きに行きます。その条件を持ち帰ってメンバーで分別法を検討します。それをニュースや説明会で参加者に伝えます。回収をし、搬入をしました。この作業で初めての回収を実施することができました。しかし、これを定期的に続けていこうとすると、様々な問題が次々と起こってきます。新しい技術に取り組んでいる事業者さんにとっても、一般廃棄物のプラスチック受け入れは不慣れなことです。受け入れ基準がつぎつぎにかわります。事業者さんもやってみて初めて分かるのです。ベンチャーの社長さんを困らせてはいけませんし、プラを分別する方にとっても基準がころころ変わるのは困りものです。参加者も情報を出す側ほど真剣にニュースを読むわけではありませんので回収する私たちも困りました。そこで、社長と話し込む、回収の場で参加者と対話する、ということの繰り返しです。どうしたらうまく伝わるのか、一生懸命考えながらの作業です。

 そのうち、回収量が増えてきたり、度重なる搬入当番に、自主搬入が難しくなってきました。カンパで費用はまかなえそうなので、運輸業者さんにお願いすることにしました。途中の事故の心配もなくなり、とても幸せな気分です。そうするとすぐ、委託搬入は法的に問題がありそうなことが分かります。また自主搬入へ逆戻りです。運転や積み卸しをしてくださるボランティア探しをしつつ、行政に搬入を頼みに行きます。行政が搬入をするためには様々な整理が必要です。時間がかかります。でも粘ります。なんとか続けたいからです。

 しかし、そうやってじたばた続けているうちに、回収の場が対話の場になり、ニュースが環境情報の発信源になり、各所にほんの少しづつ「信用」や「評価」が生まれてきました。微力ながらセクター間のコネクターとしての技です。非営利組織であることも功を奏しました。

  廃プラスチックの回収と参加状況は以下の様になっています。

プラ回データグラフ


A事業に同心円状の参加を準備する。

 二つ目は、事業展開しようとする場合、活動参加を同心円状に準備する、ということを意識してプランを立てる、ということがあります。

 環境保全のためには、生活者ひとりひとりが問題を肌身に思い、よりよいと思われることを選択、そして実践していくことで、より大きな効果が期待できます。しかし、当然ひとりひとりの置かれた状況は異なりますので、現在の自分にとって心地よい活動が選べるよう、配慮していく事で参加しやすくし、関係をつないでいこうとするものです。

 NPOの活動は主体にとっても客体にとっても、自己責任による活動になります。よって、主体として活動していくメンバーでさえ、かかわりの程度を選択していくことになります。そして、かかるエネルギーの量に応じた同心円状のプランは、賛同する人が必要数確保できた場合、実行できるプラン、ということになります。ありていに言えば、コアに手も口も金も出す人がいて、その周りに手や金を出す人がいる、口だけの人はちょっと勘弁、というところでしょうか。さらにその周りに、行動化まではいかないけれども興味・関心を持っている、という人がいます。
 この方法には、どの位置を選択するのか、判断の材料になるような定期的情報の発信と、行動化に時間が必要な人のために後ろ姿としての実践継続が有効です。
 ただ、この方法の弱いところは、始めるに当たり、「やろう」という核になる存在がいる、という前提がある、ということです。やりたい人がいない限り、事業は始まりません。だからこそ、「やりたい」と思う意志を大事にする、なんとか生かそうとする、もしくはやりたくなる、やってて楽しい環境を整えることが、NPO活動の活性化につながる、とも言えます。
 ともあれ、参加位置を選べる事業を計画できる、というのも公平性に縛られないNPOだから可能な技だといえます。

B意志を備えた「形」を残す
  三つ目は形を残す、ということです。私たちの場合、ニュースや小冊子を作る際、単に「知らせる」だけにとどまらず、やる気になる、エネルギーの吹き出し口としての役割を意識しています。読者の選択に寄与できる程の情報提供でありたいからです。
 また、環境保全に関わる生活スキルを伝える出前講座や出前授業も積極的に取り組んでいます。実践者の育成を形として残したり集団としての力を生かせたら、と考え、その活動も増えてきました。 つまり、情報やスキルに意志を付け加えて形を残そうとしています。
 また、活動を広範に、そして円滑にするために、行政へも随時、企画書を提出したり、職員参加の勉強会を市庁舎で実施したりしました。その際、必ず資料を作り、企画と意志を残してきました。 古賀市では、地域省エネルギービジョンと環境基本計画の策定が今年度から始まります。環境政策に光が当たりだしたように思います。
 このように、地域に生活する市民自身が、活字としての企画書や広報物を提案したり、実践による後ろ姿として、意志を備えた「形」を残すということは専門性の高いNPOの技のひとつだといえると思います。

Cコミュニティやシステム形成により「当たり前」を創出する

 最後は以上の総括的なところとして、「当たり前」を作り出す、ということをあげたいと思います。よりよいと思われる自己選択を支えるためには、コミュニティにおいて、何となく「当たり前よね」、という空気ができると、環境を大事に思う行動が、容易になる場合があります。楽にできるシステムや共通認識は行動選択の余地を広げるといえそうです。

 全くの自主的行動であるプラスチック回収の参加者は、地域の意識調査では次のようになっています。この地域ではいろんな力の掛かり具合で、ごみを減らそうという意識が「当たり前」になりつつあるのかな、と思ったりしています。

ごみ処理法アンケート調査
<雑プラスチック>

参考資料:「ごみ減クラブ」No.3  (2002.7.13)

3.産みの苦しみ
 これまで、私たちの技と思われるものについて、いくつかお話しをしてきました。では、やすやすとここまできたのでしょうか。いえ、決してそんなことはありません。
 これまで私たちは必要に迫られて、いろいろ理念の整理をしてきました。メンバーの活動参加はそれぞれの意思にかかっていますので、その意思確認には整理が欠かせなかったからです。いったい自分達はどうしたいのかと問いながら、目的を明確にし、課題への対処を具体的にしていく整理が必要でした。活動には、手探りのまま「今すぐできること」をつかんでいくことが必要だったからです。
 よって、活動を進めていくには、たくさんの時間と整理が必要でした。そのうち遠ざかっていく人もいました。しかし、重ねた議論と実践は、次第にわたしたちをたくましくもしていきました。なぜなら、継続的事業を実施していくには、「信用」こそ不可欠であり、それに伴う責任が次第に大きくなっていったからです。
 自分達の意思、知り得た情報を、ありていにかって発信し、発信したとおりに実践を積み重ねることは、当たり前のように見えて、なかなか厳しいことでもありました。新しい「当たり前」を生み出す厳しさを知ったとも言えます。そして、同時に自分達の力量に応じた仕事の量を、自らで決めていく厳しさも味わいました。
 こうして、責任能力を高める事と評価の相互作用に加えて、人との出会いが、市民活動をNPO法人化へと押し上げていったようです。
 私たちの技とは『つなぐ』というコンセプトのもと、いかにして団体がPDCAサイクルを回しながら、周りを巻き込んでいくか、その手法そのものとも言えそうです。そしてその実現が産みの苦しみとなっているのではないでしょうか。

4.展望 
 最後にこれからの展望について述べたいと思います。法人格を取得した、地域に根ざす実働NPOの課題は、継続のために人的にも金銭的にも「経営を成り立たせる」という事だと思います。そのために必要なことが二つあると思います。

○成員が素人から専門家になる、ということ 
 ここまで来るうちに、個人の力量はかなり鍛えられました。今の仕事内容は成員の人数から言うとちょっと苦しいのですが、どちらかというと、新しい加入への不安が大きいとも言えます。素人から専門家への過程は、なかなか厳しいからです。
 しかし、やっていくことでしかこの課題はクリアーできないので、やれるところでやっていきたいと思います。

○行政と契約を結ぶということ
  私たちの市民運動からNPO法人への転換は、活動の「継続・浸透・拡大」を目指したということと、さらにもう一つ、行政セクターとの「対等性」を求めるということがありました。それは市民活動の目的が社会的課題の解決にあるため、行政との関連は直接的かつ密接であるからです。
 活動の継続はもちろん、活動を仕事としてより多くの人に出すことで、関心も興味も実践も広げることができます。現在の切実な思いとしては、NPOとしてのミッションを大事にしつつ、事業委託を受けたい、ということです。
 しかし今の行政システムにはNPOを仕事先として選ぶシステムがありませんし、NPOのミッションへの理解も充分とは言えません。法人化はその打開策でもあったわけですが、現在は、その折衝の過程にあります。
 エコけん発会時の名称は「ごみ処理施設の建設をきっかけに古賀市の将来を考える会」という長い名前でした。この名称に込められた、地域を思う気持ちと、プロ意識で、NPOにアウトソーシングすることが「当たり前」になっていくよう、また、じたばたしながら、活動をなんとか続けていきたいと思っています。そして他のNPOが活動しやすくなっていけばいいな、と思っています。
ご意見、ご質問お待ちしております。


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