エントロピー学会 第20回シンポジウム
922日(日)
シンポジウムV:環境NPOの技

NPO法人によるバイオガス循環事業の試み
NPO法人 小川町風土活用センター(NPOふうど) 井沢博之、桑原 


1.事業の背景

小川町内では1992年より家庭規模でのバイオガスプラントの運転を行っており、現在、コンクリート、ポリエチレン簡易型を含め6基が稼動している。ガスは家庭用調理への利用が主であるが、エネルギーよりも液肥の利用が利用者の関心の中心となっている。液肥は畑作への利用が元肥、追肥両方に活用されている。1999年度、環境省(当時環境庁)は、市民・自治体・事業者が協同して脱温暖化型社会構築に向けて地域の固有性や特徴をいかしてさまざまな技術を集中的に投入することで温室効果ガスの排出を削減する対策のモデルを形成することを目的として「地球温暖化対策実証実験地域予備調査」を実施した。小川町も対象地域に選定され、実質的な調査とプランの立案を小川町自然エネルギー研究会(NPOふうどの前身)が行政の協力のもと実施した。小川町の地域性を考慮して、事業として採算性を重視しつつ、具体的に2つ実証実験プロジェクトが立案されたが、そのうちの1つがバイオガス技術を軸とした生ゴミの循環資源化事業である。

小川町における生ゴミ発生量は1600トン/年、他の未利用有機物を含めたバイオガス発生可能量はおよそ4903/日である。NPOふうどでは、日ガス発生量100m3程度の中規模プラントを町内の農地、市街地の配置を適切に考慮して4ないし5基設置することで町内のバイオガス利用可能資源をほぼすべて活用する方法を検討している。その場合、生産される液肥は9800m3/年であり、すべてを農地還元するには畑作地およそ86ha、小川町内の全農地の10%に相当する農地を必要とする。また水田に施肥する場合は200ha、小川の全水田面積にほぼ等しい面積が必要である。

小川町において、NPOふうどがバイオガスの建設・運転技術、液肥の利用などの点ですでにかなりの実績を積み上げていることを背景に、NPOふうどと行政は、生ゴミの循環資源化事業の実用性を確認するための作業を、現在進行中の「環境基本計画」のアクションプランの一環として行うことを合意した。また液肥については、埼玉県農林総合研究センターと共同で水稲生育試験をおこなうこととなった。

基本的は方針は
@     バイオガスプラントは、NPOふうどが建設・運転をおこなう
A     生ゴミの収集・運搬、そのためのブロック割などは行政が行う
B    
生ゴミ分別の徹底は自治会を中心にNPOふうどが宣伝活動に協力する
C    
液肥の分析、水稲生育試験は農林総合研究センターが行い、日常の管理・記録はNPOふうど会員農家が実施する

 2001年6月より、町内住宅地のゴミ収集最小区画(15世帯)を試験的に家庭生ゴミの分別収集実施地区に指定し、実験を開始した。発酵槽は地上設置型で5立方mの容積をもつ。真空管式太陽熱温水器によって得られた温水を太陽電池を電源とするポンプで強制循環させることで加温する。さらに2002年9月現在では参加世帯を50に拡大して、それにあわせて醗酵温度を35度に上げ、投入部分を改良して試験を継続中である。 (写真−1 実験施設)

この予備実験の主な目的は、@小川町に最も適した分別収集の仕組みを作り上げるための判断材料を得ること、A生ゴミのバイオガス発酵によって得られた液肥と従来のバイオガス液肥の機能を分析すること B生産された液肥を水稲栽培に利用するための技術の確立である。

2.事業の近況

2001年6月より生ゴミを提供してくれた15世帯に資源提供に対する謝礼として地域通貨を発行した。その原資は、現在の生ゴミ焼却処理コストをバイオガスプラント処理した場合との経費の差である。発行元は「小川町農業後継者の会」通称「わだち会」という農家組合である。野菜クーポンの単位はFOODO(ふうど)でクーポンは5FOODO、500円相当。何度も使えるようにラミネートしてあり、偽造できないように工夫がされている。

現在の焼却処理費は44円/kg、バイオガスを利用したときは20円/kgしたがって24円/kgの節約になっている。バイオガスでの処理費用20円/kgはNPOふうどがプラント建設・運転・維持管理経費込みで町から業務委託しても利益を出せるとしてはじいた概算額である。
 1家庭あたりの生ゴミ提供量は昨年の実績で110kgしたがって110x(44−20)=2640円が1家庭あたりの通貨原資となる。この通貨は現段階では野菜クーポンとして使われている。
 生ゴミ提供家庭は決められた日にちにわだち会の野菜農家が用意した野菜パック(1500円相当)をクーポン3枚と引き換えにもらえる。(写真-2)わだち会はクーポンを町に渡し、相当の円を受け取る。
 開始後の提供量を見てみると生ゴミの質は変わらないものの、提供量が減少したが、野菜クーポンを利用した後は、提供量が初期の水準に戻っている。
 将来的にはNPOふうどが44円/kgで処理を業務委託し、NPOふうどで通貨を発行する体制にしたいと考えている。埼玉県農林総合研究センターと共同で行っている水稲栽培試験の結果、収量増・食味改善が明らかになれば、液肥の利用を拡大でき、液肥の販売をこの通貨でできるのではと期待している。農家のところに溜まった地域通貨をNPOふうどが液肥の販売で回収することができるので、円に換金という禁じ手を使わずに通貨として回る。
 野菜クーポンが地域通貨への脱皮をするには、しっかりとした循環の道筋がつくことが必要で大変困難な道のりである。しかしながら焼却から循環への変更それ自体を原資とした地域通貨の意味は大きいので軌道に乗せたい。この方式の場合、循環への移行の率が多くなればそのまま通貨の流通量が増えることになる。ちなみに小川町での生ゴミ発生量は1600トンなので、最大4000万円相当が通貨原資に振替できる。

3.地域社会でバイオガスを推進するためには

地域レベルでバイオガスの導入を図る場合に出会う困難さはバイオガスが持つ多様な役割に由来している。 太陽光・風力は分散型の電源として技術開発を政策的に誘導し経済性・収益性を向上させることで、メーカー、電気事業参入者、系統の管理者であり買電者である電力会社の役割を特定し、完結した推進策を立てることができる。 ところがバイオガスの場合は、エネルギーの外に、地域的な要素が大変大きくかつ重要である。バイオガスを利用した地域循環とは細かく分解してみれば、バイオガスの原料を供給する家庭・各種産業であり、農業のための資材(肥料・土壌改良材他各種微生物資材)とバイオガスの生産を行うバイオガス事業であり、さらに生産されたエネルギーと農業資材を利用し、再生産を行う地域の産業とりわけ農業である。 これら3つの要素の活動をうまく連動させながら運営をすることがバイオガスを用いた循環事業とも言えよう。

そのためには、新エネルギーの生産・利用推進と同じく、あるいはそれ以上に、もう一つの生産物である有機質資材(バイオガス液肥)をしっかりと利用していく農業者の育成が不可欠である。これらの視点に基づいた地域レベルでの試みが、今後各地で進められることを期待している。









































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