エントロピー学会 第20回シンポジウム

9月22日(日) シンポジウムV:環境NPOの技

行政と市民との協働事業を提案するコンサルタント業

NPO法人地域循環研究所 研究員   木島 麻友香

1.コンセプト 
 わたしたちはNPOの事業のひとつとして環境コンサルタントを行っています。コンサルタントとして何をするかというと、地域に循環を作り出すための仕組みづくりです。従来のコンサルタントのような地域の状況を無視した計画倒れのプランをたてて終わりではありません。計画をたてたあとで地域の市民が活動を展開し、それと同時にモノとお金が地域の中で動き、「いい仕事」として地域循環が動き出す。ここまできちんとつきあう。
 これがわたしたちの仕事です。

2.ビジョンから見たわたしたちの仕事
 わたしたちが環境コンサルタントとして取り組んでいるのが地域新エネルギービジョン(注1)及び地域省エネルギービジョン(注2)の2つの策定等事業(以下、順に新エネビジョン、省エネビジョンと略す)です。これはNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)が地球温暖化による温室効果ガス削減対策として始めた、自治体向け100%補助の環境計画策定事業です。ですから厳密に言えば、NEDOから補助金の交付が決まった自治体の計画作りのお手伝いをするのが仕事、ということになります。
 名目上は「調査委託」ですが、実際には予備調査から計画策定までほとんどの自治体でコンサルタント任せの状態です。これは自治体の職員自身に環境計画つくりのノウハウがないこと、行政と市民による協働事業の導入手法を知らないこと、などがあげられます。
 ところが従来の環境コンサルタントは基礎調査や他地域の活動(例えば、わたしたちの省エネ授業)の紹介ばかりの報告書に仕上げていました。

平成12年度省エネビジョンの報告書の点数評価を行いましたが(図1を参照)、それらの報告書では、各地域でどのような省エネルギー事業(活動)ができるのか、誰がやるのか、その費用は、という最も肝心なところが、すべての報告書で抜けていたのです。これでは「絵に描いた餅」で終わってしまいます。
 作ったプランを誰が実践するのか、お金はどれくらい必要なのか、地元の市民グループがそれだけの能力を持てるのか、誰が育成していくのかといったことがすべて抜けていました。
 もともと土木建築の調査会社が、公共工事がなくなった結果、看板を環境に変えて参入してきたのが原因です。土木というハード面の調査しかやったことのないコンサルタントが、看板を変えたからといってすぐに市民活動の育成・支援といったソフト事業をやれるはずがありません。

さらに困ったことに、自治体からの調査委託が競争入札であることをいいことに、(中には金額よりも企画書の内容で決める自治体もありますが)激安価格(1件300万円)で落として多くの自治体からの調査委託を受けるコンサルタントが出てきてしまいました。地域活動を掘り起こし育成するという調査にかける費用など、ここからは捻出できませんから、結果はもちろん、中身のないビジョン(基礎調査のみ)が作成される羽目になります。これは委託元の自治体はもちろん、スポンサーのNEDOも頭を抱える結果となりました。

その結果、これまで1000万円規模の事業であった新エネビジョン・省エネビジョンが400万〜600万円まで下がることとなりました。NEDOはお粗末な調査事業を行ったコンサルタントの様子から「こんなに(1000万円も)お金をかけなくても(基礎調査だけの)ビジョンは作れる」と判断したのでしょう。
 それと同時に、調査委託を行う自治体側からのチェックも厳しくなり、そう簡単に新エネビジョン・省エネビジョンの仕事がどこの環境コンサルタントでもとれる状態ではなくなっています。
 こうした現実から、調査事業のみで何も地域に残らない新エネビジョン・省エネビジョンしか提示できない環境コンサルタントはますます事業展開が難しくなってきています。

NEDOも自治体も必要としているのはつくったあとに地域で実行されうる現実的な新エネビジョン・省エネビジョンです。新エネビジョンや省エネビジョンが地域で実行される計画になるために必要不可欠なもの。それは行政と市民が環境事業で協働することで省エネが推進されるシステムづくりであり、それがすなわち、「育成システム」であり「協働システム」であると考えます。
 よってわたしたちは新エネビジョン・省エネビジョンを通して地域に育成システム、協働システムを構築することを考えています。

(図1)


3.育成システムと協働システム

従来型の省エネビジョンでは、行政は計画策定したことを住民へ広報等によって知らせるにとどまり、一般市民に省エネ活動を広める術がありませんでした。住民もまた、政治に対する関心が薄く、行政任せの状態でした。そこで、地域のNPO法人に環境行政の一部を担ってもらうことで、閉塞した状況を変えることができます。行政がNPO法人の役割分担と事業委託費を明確に示すことで地域のNPO法人は、例えば省エネ普及活動を地域の現場で公的に責任を負って行うことができるようになります。一般市民はNPO法人の熱心な草の根的な活動によって、省エネ活動の実行を啓発されていきます。

行政が地域のNPO法人に対して業務委託費を支払って実施することで、NPO法人は責任をもって安定した事業展開をすることができるようになります。その結果、(税金の使い道を選ぶことはできませんが)一般市民は自分たちに役立つ事業に対して税金を支払うことで、ふたたび需要に見合った社会サービスを受けることができます。
 NPO法人と行政との協働事業は、一般市民への環境関連の事業サービスにおいて安定供給を図ることができるとともに、一般市民へ省エネ活動普及啓発を確実にするという二面性を持っています。

「環境NPO育成システム」は環境問題に意識のある市民団体を法人格のある環境NPO法人へ組織改革を行い、地域の中での市民の活動を有効なものにするシステムです。法人化を取得することで、業者登録をして行政と事業契約を結ぶことができます。
 実際、わたしたちは法人格を取得したことで、徳島県木頭村の新エネルギービジョンの事業委託を引き受けることができました。

一定のルールに則って社会的信用を構築するNPO法人になることにより、任意の市民団体は法的に信用が得られるようになります。一方、環境NPO法人はいかなる行動を取る際も企業と同じ社会的責任を負う立場に置かれ、甘えは許されず、常に責任ある行動を取ることを求められます。
 批判だけして対案を出さない。言いっぱなしの批判。これが無責任な行動です。
 NPO法人としてお金をもらって仕事をする立場になれば、これまで行政が恐れていたような対立のための対立、現状を度外視した批判による政策の停滞などは発生しません。逆に市民側としても市民団体の時にはほぼ不可能であった行政への参画・提言がよりスムーズに展開できるようになります。つまり、市民と行政のパートナーシップがとりやすくなるのです。
 経済不況の中、雇用の促進という観点から見ても省エネビジョンで育成システムを構築する意味は十分にあります。実際、非営利機関は、アメリカにおいて最大の「雇用者」になっています。日本でも政府が非営利機関への期待を高め、雇用創出事業に多額のお金を費やしていることからも単なるボランティア団体ではなく、ひとつの事業セクターへと見方が変化しつつあります。人々の価値観の多様化と政府・公共部門のリストラの進展はNPOの地域コミュニティにおける重要性を必然的に高めており、雇用先として今後ますますNPOへの需要は増加すると考えられます。これは福祉部門における福祉NPOの活躍、雇用の拡大を見れば容易に理解できます。

わたしたちは、それゆえ新エネビジョン・省エネビジョンの事業範囲内でNPO法人化し事業委託することに重点をおいたワークショップを実施します。これは土木出身のコンサルタントには困難な手法です。
 このことでスムーズな協働事業の起業化が図れます。NPO法人が環境施策において社会サービスを担っていくことを「あたり前」のことにするための基盤作りになります。

計画策定の中で成立したNPO法人は協働システムプロジェクトを通してさまざまな事業経験を積んでいきます。NPOと行政は協働事業経験を積んでいく中で生じた問題を解決しながら信頼関係を構築していきます。その結果、行政側からの信用が得られれば次の仕事につながるので、NPO側の需要は増し経営組織の安定につながります。
 他方、行政は、個々の問題に対して専門的な知識を持ったNPO法人に業務を委託することで同じ市内でも地域性を配慮した対応ができるようになります。従来の公平・平等の原理に基づく行政サービスだけでは手がまわらなかった部分にまできめ細かな対応ができるということです。これは公益的な社会サービスをNPO法人と役割分担することで、行政事業のムリ・ムダを見直すことになり、結果的に行政事業のスリム化を促すことになります。

4.NPO法人としての事業展開
 わたしたちはNPO法人であるがゆえの独自なコンサルタント事業を行おうとしてきました。わたしたち自身がNPOゆえに、これまで述べてきたシステムつくりを各地で提案し実行に移すことがわたしたちの役目であると考えています。
 実際に、行政とNPOが協働できるシステムの構築を行うために、現在、ここ福岡県大木町で活動を展開しています。「地域循環型社会」の形成を目指した、地域の中でお金、ヒト、モノが動く小さい町での大きなシステムづくりです。バイオガスプラント、省エネ授業、学校給食、地域通貨など、社会技術を駆使したプロジェクトが環をなして循環ができあがります。これには地域の市民セクターの協力が欠かせません。 
 地域のNPO法人が地域経済を豊かにし、まちづくりを行います。そのための道具として100%の補助事業である(つまり、自治体の負担がゼロの)省エネビジョンは十分に活用できます。

5.NPO法人としての事業展開
 わたしたちは新エネビジョン・省エネビジョンの委託事業への取り組みのほかに、省エネ授業のコーディネートや学校給食へ地場産物導入をすすめるコンサルタント事業を行っています。
 事業内容は多種多様ですが、「いい仕事」として誰がやっても継続でき、地域が活性化するシステムを地域に根付かせる、ということが、わたしたちの動き方の核にあります。
 学校給食の地場産物導入について言えば、農薬だらけの輸入野菜やインスタント食品などに囲まれた貧しい食環境にある子ども達に、地元の安全な食材を食べて食の大切さを理解してもらうことが重要な目的です。
 わたしたちが環境コンサルタントとして行うことは地場産給食(市町村産食材を利用した給食)を導入する際にがんばって取り組む人のみに過度な負担がいかないシステムをつくることです。

 給食に漫然と他地域や輸入農産物が運び込まれるシステムが存在します。それに変わるシステムを提案し、実現させるのがわたしたちの仕事です。
 その結果、地元の農産物を給食に提供する仕事がうまれます。「いい仕事」の誕生です。「いい仕事」が地域を豊かにし、子どもたちの食生活を豊かにすることができます。現在の給食の流通に対する、明確な対案です。

  非営利だからこそ調査や関係作りなど、人手がかかる部分を丁寧にできる。手を抜かないから完成度も高い。
 そして、確実に地域に「いい仕事」を残していく。きちんとした収入が得られる仕事として動き出せば、もはやわたしたちがいなくなっても地域はまわります。
 これがNPO法人としてコンサルタント事業を続けていくことの醍醐味であると考えています。

NPO法人 地域循環研究所
〒852−8521長崎市文教町1−14 長崎大学環境科学部中村修気付
電話    095−843−1633(直通)
ファクシミリ     843−2033(研究室専用)
http://www.junkan.org/ 

注1:新エネビジョンでは現在地域で使用しているエネルギー使用量および地域の新エネルギー賦存量を調査する。それらの結果を基に、地域の特徴を活かして新エネルギー利用型設備の導入等による温室効果ガス削減を検討する。
注2省エネビジョンでは現在地域で使用しているエネルギー使用量を調査し、効率的な設備への変更や省エネルギー行動等でエネルギー使用量の削減を検討し、地域の特徴を活かした短期、中期、長期の省エネルギー推進プランを立てる。

<参考文献>
1)山内直人訳『NPO最前線−岐路に立つアメリカ社会−L.Mサラモン』(岩波書店、1999).
2)D.ヘントン、J.メルビル、K.ウォレシュ著、加藤敏春訳『市民起業家−新しい経済コミュニティの構築』(日本経済評論社、1997).


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