地場産自給率調査から地場産給食の提案へ

 NPO法人 地域循環研究所  辻林 英高
長崎大学経済学部大学院 経済学研究科

概 略

昭和29年に学校給食法が定められてから今日まで、給食の中身は少しずつ変化してきた。その変化は日本内外の経済や農業、畜産業の変化を起因とするものもあったし、栄養学の進歩を随時取り入れることによる変化もあった。現在、学校給食においては、食の指導や健康教育、あるいは総合教育の一環といった分野においてより大きく期待されるようになっている平成13年文部科学白書より)。また、そこで使用される食材はできるだけ児童の身近なところで生産されたものであることが望ましいとされている。それは教育的配慮からも、また、地域振興や保護者の安全意識の高まりからかも、そうした食材利用の形態が求められている。これをそのまま実行すれば「地産地消」という思想の実践となる。
 日頃の給食で「地産地消」をどれくらい実践しているかを示す基準のひとつが「地場産自給率」である。平成13年から14年にかけて実施した全国地場産自給率国調査では、多くの自治体や学校栄養士が学校給食における地産地消の実現に強い意欲を示しながらも、地場産自給率は非常に低い値であることがわかった。全国から返送されたアンケートを見ると、食材の調達に関しては各県内産農産物の利用割合が比較的高いが、基本的には日本全国はもとより全世界から広範囲に食材を集荷し、それらを効率的に分配するといった高度な市場流通機能に強く依存していることがわかる。これでは地産地消は進まない。この既存の流通に加え、地元(あるいはその近隣)で栽培された農産物やその加工品を日常的に、かつ、まとまった量を給食現場に届ける給食専用の地域内流通を構築し、給食の主体である児童・保護者の意向を実現しやすい食材提供について提案する。
この地域内流通の確立により給食食材のトレーサビリティが確保されるとともに、既存の給食流通システムの下では蚊帳の外にあった地元農家が給食事業に参入できるようになる。地元農家と地元の学校との経済的交流のスタートである。さらに、授業の中での「人的交流」を提案する。農家と子どもたち、あるいは先生達との交流は経済的な交流以上に意味があるかもしれない。

1. 地場産自給率という概念
 これまで給食に地場産物をという掛け声はあっても、実際にそれが事業として動いた例は極わずかであった。その理由のひとつは、行政が提供する学校給食というサービスの内容を評価する指標がなかったためと考え、その評価基準のひとつに「地場産自給率」という指標を用いることを提案した。地場産自給率とは給食に使用された食材のなかで、その学校の所在地(自治体内)で生産・加工された食品の割合を重量換算で求めた数値(%)である。
 平成11年12月、長崎大学環境科学部中村修研究室、福岡教育大学秋永研究室が共同で長崎県内79市町村の教育委員会に地場産自給率調査と学校栄養士の意識調査(アンケート調査)を依頼、実施した(回収は58カ所)。その結果は、長崎県内の平均自給率は6.3パーセントであった。

2. 全国自給率調査
 平成1312月〜平成141月の全国調査を計画し、平成135月より雑誌、新聞等で参加を募ったところ120件以上の問合せがあり、最終的に61施設から自給率調査ならびにアンケートの実施報告を受けた。表−1は給食食材の産地別割合の全国平均である。なお、調査を実施した学校栄養士から施設名の非公開を条件とするものが多くあり、全ての施設名を非公開とした。

表−1 全国学校給食自給率調査結果

産地

使用割合(5日間の平均)

地場産

11.19

県産
(都道府県産)

47

国産

32.65%

外国産

9.30%

不明

2.26%

99.87%

-1は、各給食センター・給食調理場が5日間の地場産自給率調査で算出した地場産食材の使用割合(平均自給率)の構成を示したものである。最も多かったのが自給率0−5%(0%以上5%未満)で全体の28%(17施設)を占めた。次いで自給率5−10%(5%以上10%未満)で25%(15施設)。この二つを合わせ、過半数の施設において自給率10%未満であることがわかる。

-1 地場産自給率の構成割合

 使用されていた地場産物は、各種生鮮野菜、米、調味料(味噌、醤油)、加工品(豆腐、かまぼこなど)、牛乳、卵、鶏肉などがあった。地場の水産物利用は北海道で鮭を使用している施設があった。

 図−2は、図−1で地場産にカウントされた生鮮野菜、食品の購入が意図的に実施されたのかどうかを確認するために、「産地指定」の有無をたずねたものである。

図−2 産地指定の実施率

 結果は、5日間のうちで「地場産品1品(1種類)の地元指定」があったところが全体の23%(14施設)、以下、2品が2%(1施設)、3品が5%(3施設)、4品が7%(4施設)、5品以上が7%(4施設)、地元以外の産地指定品をしていところが5%(3施設)、まったく地元指定・産地指定がなかったところが51%(32施設)だった。
 半数近くの施設でなんらかの「指定」は実施しているが、その品数はほとんどの施設で1〜4品にとどまっている。産地指定を実施している給食施設の過半数が1品のみの指定である。1回の給食に用いられる食材の品数(種類)が20〜30ほどであるのに対し、その品数は決して多くない。このことから意図的に地場産物の利用をしている給食施設が意外に少ないことがわかった。
 給食施設が年間を通して使用する各種生鮮野菜やその加工品の種類は4050程度。うち、調査を実施した12月〜1月に利用可能な生鮮野菜(露地物)の品数は地域によって異なるので一概には言えないが九州北部では20種程度(福岡中央卸売市場青果物年間スケジュール、平成9年より)。図−2で「指定食材」としてカウントされる地場産物にはこうした露地物の生鮮野菜に加えハウス栽培の野菜、そして米、地場産物を加工した豆腐や醤油などが含まれる。

3. 地場産自給率と指定品目数を組合せて評価
 地場産自給率は重量を基準にしているため給食食材の内容を示す指標としては完全ではない。例えば、総重量(1人当たり)600gの給食で約200gの牛乳パックひとつが地場産の場合には、牛乳だけで自給率33%と非常に高い値が出てしまう。平成9年より地場産給食を実施している福岡県宗像市でも地場産物の利用割合を示す指標として地場産自給率と同様の手法を用いているが、現場の栄養士から、より地場産利用の努力を反映した指標を求める声も上がっている。
 そこで、地場産自給率(図−1)と指定食材数(図−2)を組合わせ、地産地消の実施状況をヒストグラムで表したものが図−3である。データは今回の全国調査(■)と地場産給食先進地のデータ(☆)を用いた。先進地は長崎県生月町、勝本町である。生月は自給率8.0%・指定食材数16品目、同じく勝本は25.3%・18品目。先進地では自給率に対して、指定食材数が非常に多いことが分かる。

図−3では、より上方、かつ、より右寄りの座標に位置するほど地産地消の実施率が高いということになる。図中の点線    は任意の「地産地消のクラス分け」の区切り線である。例えば、最も下方・最も左側のクラスをDとし、順次、自給率と指定食材数が増えるごとに、CBAという具合にクラスを分け、現状がDならば、1年後までにCに移行する計画を立てるといったことに利用できる。行政サービスに限らず現状からの改革のためには、このような明確な到達点を設定する必要があるかもしれない。


図−3 地場産自給率と指定食材数のヒストグラム

     ・・・平成13年全国調査
☆・・・先進地(長崎県生月町、勝本町)

4. 栄養士からの指摘  −和食と洋食の自給率の差−
今回の調査で何人かの栄養士から和食(米飯)と洋食(パン食)によって自給率が大きく異なる傾向にあるという指摘が出た。以下がその典型的な例である。

H給食センターの場合>

水曜日 和食中心の献立
ご飯、キャベツと油揚げの味噌汁、ジャガイモのそぼろ煮、蒸し餃子、牛乳
自給率17.7%

使用されていた地場産物:人参、キャベツ、じゃがいも、玉ねぎ

木曜日 洋食中心の献立
パン、ハンバーグ、ほうれん草とコーンのソテー、フルーツクリーム和え、牛乳
自給率0%

この献立の場合、アメリカ、カナダ、インドネシア、フィリピン、ギリシャ、など海外産の食材が多くなっている。

H給食設は生鮮野菜の多くを地場産物でまかない、さらにいくつかの種類の野菜を産地(生産者)指定の上の使用している施設であるが、その日の献立によって自給率が大幅に変わることがわかった。こうしたことから、地場産物の積極的・効果的な利用のためには、以下のことが必要と考えられる。

     栄養士は献立作成時より地場産物の利用を念頭に置く必要がある。
    
そのために、生産者グループ、役場担当部署、JAなどの生産者側からの情報提供が必要である。

5. 栄養士は地場産給食に大賛成
 図−4は、「地場産品を給食で利用することは大切だと思いますか?」という質問に対する各栄養士の回答である。

図−4栄養士アンケート

   地場産物利用について














アンケートの回答は自由記入方式であったが、得られた回答を簡略化し「とても大事」「普通に大事」「それほどでもない」「大事ではない」「その他」「無回答」として図-4で示した

90%の栄養士が「とても大事」「普通に大事」と回答しており、学校栄養士が地場産物利用を肯定的にとらえていることがわかった。なお、地場産品の利用に否定的な意見は皆無だった。

以下は、地場産物利用が大切だと答えた栄養士の自由回答部分。

     地場産物利用をうまく教材にすることで、子どもたちに食べることや食べものについての関心を引き出すことができる。
     地場産物は生産者の顔が見えるので安心して使用できる。
     子どもたち+地域の活性化に役立つ。
     食べ残しを堆肥化するなどして、循環型社会の構築に関して身近な問題として捉えやすい。
     生産者を知ることで感謝の気持ちが自然にでてくると思う。
     調査するうちに地場産物の重要性がわかった。
     栄養士として子どもたちに食指導するときに非常に役立つ。
     「旬」ということを教えられる。
     子どもたちと生産者にとってともに重要。
     四方四里のものを食べていれば健康、という諺は栄養学的にも正しい。

6.学校栄養士だけで地場産給食は完成しない
 図−5は「給食に地場産品をより多く利用するためにはどこの(どういった職業や機関)の協力が必要だと思いますか?」という質問に対する栄養士の回答である。
 地元のJA(農協)の協力が必要という回答が多かった。次いで、役場の農業関連部署、地元農家の協力が必要というものが多かった。

図−5 栄養士アンケート
   地場産給食に必要な協力機関について










※アンケートの回答は自由記入方式であったが、得られた回答を複数回答として扱い図‐5でまとめた。


子どもたちへの食教育のために、教育委員会や学校関係者の協力が必要だという意見も多かった。これら他の機関との協力の必要性について述べるのと同時に、栄養士だけの力で地場産物の利用促進は非常に難しいという意見が多かった。

以下は、この問に関する栄養士の考え。
栄養士の追加的な仕事としては無理、とにかくどこかとりまとめる組織・機関が必要だと思います。
     現在の業者さんに理解してもらって、地元のものを仕入れてもらうのが良いと思う。
     農家の方が子どもたちの健康や成長を願って野菜を安価・安定供給してくれること。

7. 地場産給食への移行手順  −全国調査の結果を生かして−
@     協議会の設置
 現行の給食から地場産給食への移行は、地域全体で取り組む必要のある「事業」である。そうした認識にもとづいて、自治体が主体となり「地場産給食協議会」のような全体の話し合いの場を設ける必要がある。この協議会には、役場農政担当部署、同じく教育課、教育委員会、栄養士、調理員、さらにPTA、生産者、農協、一般納入業者などが参加するのが良いと思われる。

A      給食基礎調査 
 現状(事業の開始以前)の給食情況を把握するために自給率ならびに指定食材数の調査を実施する。

 過去1年間の献立表から、食材(主に生鮮野菜)が旬の時期に使用されているかを調査する。旬の野菜は価格も安く、微量栄養素も豊富であるが、そうした食材を現状でどれくらい利用しているかを把握する。旬の食材の積極的な利用は給食費の軽減につながるが、地場産給食に変更する場合、これがどの程度の価格になるかの試算を行う。また、地場産米や減農薬野菜を使用した場合の給食費変動幅の試算を行う。

B保護者へのアンケート調査
 アンケートによって保護者の地場産給食に対する需要を確認する。また、食材費の増加が予測された場合、その給食費負担が認められるか否かを確認する。このように保護者(=費用負担者)の意向を確認することで、以後の給食事業の展望を正当に策定できる。

C     域内の地場産物の供給可能性調査 
 地域内の生産者、直売所等が年間を通じて給食に出荷可能な食材の種類・量・時期を調査する。この調査では単に食材の出荷が可能というだけではなくFの交流会事業にも参加可能な生産者を開拓する。

D     納入事務に関する調査、提案
 新規納入者となる生産者や直販所などが給食センターに納入する際に必要な手順、事務手続き、契約方法などを整理する。学校給食という特殊な調理現場に対応した各種地場産物や減農薬・有機栽培野菜、もしくは米の供給体制を現場レベルで整備する。また、既存の納入業者が地場産物の発注、集荷、納入を行ったり、学校から農家への支払いなどの会計業務に従事することの可能性について検討する。
 協議会で上記の内容を詰めていくと同時に、新規納入者と既存納入業者との摩擦を可能な限り解消する。地場産給食はその開始から1年の間に最も多くの問題が噴出するが、その問題の多くは納入に関するものであり、この問題を事業開始以前に整理しておくことは事業の成功に貢献すると思われる。

E     学校栄養士・調理員と生産者との意見交換会の設置提案
給食センター側と生産者側が情報交換を行ったり、互いの要望を伝える場を日常的に設ける。これにより栄養士が年間の出荷計画や旬を知ることで、無理なく地元農産物を生かした献立をつくることができる。生産者も栄養士や調理員の要望を直接聞いておくことで、より調理に対応した農産物を納入できる。
 野菜の規格や栽培方法、納入時の状態(土や虫など付着なども含めて)は、給食センターにとって最重要事項のひとつであり、これを事前に当事者間で話し合っておくことで事業開始後の問題悪化を防ぐことができる。

F     児童と生産者との交流会の提案、および地場産給食の教育効果についての考察
地場産給食の教育効果向上を目的とした、生産者による出前授業や、生産者と児童の交流会の実施を計画する。交流会等実施後はアンケート等を実施して、その効果の有無を確認する。
 農業専門家である生産者と定期的な交流を持つことは、児童のみならず、担当教諭にとっても有用なことであると考えられ、これを実施するための準備を行う。児童は生産者と直接対面することで野菜に対する愛着が持てるようになるかもしれないし、または、農地や水田が生き物の宝庫であることに驚愕し、自然と農業の大切さを学び取ってくれるかもしれない。


目次へ戻る