エントロピー学会第20回シンポジウム
9月21日(土) シンポジウムT:地産地消の技
地元の消費者を地元農業の応援団に!
福岡県北筑前地域農業改良普及センター 川口 進
1 学校給食には地元農産物を使いたくないの?
平成11年11月29日〜12月3日の5日間、北筑前地域(粕屋・宗像)の小学校の栄養士さんにお願いして、学校給食に地元の農産物がどれくらい使われているかを調べてみました。(資料1)
驚いたことに、ほとんどの市町村では地給率(地元産自給率)がほぼ0に近いことがわかりました。ただし、地元の協力でジャガイモ、人参、玉ねぎだけは自給している須恵町と、センター方式を自校方式に毎年2校ずつ戻して、自校式になったところから地元の農産物直販所の協力で地元の野菜を取り入れている宗像市は地給率がたかいことがわかります。
つまり、よほど意識してない限りは、学校給食で地元農産物を使うことがないと言ってもよさそうです。
では、他市町村は地元農産物を使いたくないのか?と、各栄養士さんに尋ねてみると、「いーえ、地元産を使いたいです。でも、どこに頼めばいいのですか?」…使いたいけど、やり方がわからないのです。一方、地元JAや直販所に尋ねてみると「学校給食に使ってもらえるもんなら、ぜひ使って欲しかばって、誰に言えばいいとかわからん!」…使ってもらいたいけれどやり方がわからない。そうなんです。使う側も作る側も、地元農産物を使うことに対して反対者はいないのです。ただ、「地元農産物を使うしくみ」ができていないだけなのです。
2 地元農産物で学校給食にのりこもう!
(1)地元のお米を学校給食に! 〜JAと学校給食を結ぶ〜
つい最近までは、米には国の補助金がついていたため、地元米を使うことが難しかったのですが、うれしいことに平成12年4月にその補助金が廃止になりました。つまり、文部科学省としては「どこからお米を入れてもいいですよ!」と宣言したことと同じことなんです。
ですから、学校の栄養士さんに相談して値段さえ折りあえば、あなたの田んぼのお米でもOKなんです。お米は保存もきくし、学校給食の食材の中では一番取り組みやすいものです。ぜひ、お米から取り組み始めることをお勧めします。
さて、実践編です。
お米といえば、やはりJAの出番です。基本的には個人でもいいのですが、「安定供給」「安定品質」の点で、やはりJAの信用は厚いです。最近ではほとんどのJAが乾燥貯蔵・精米施設を持っていますので、取り組める体制にはなっています。
では、年間に必要なお米の量を計算してみましょう。例えば、A町では5000人の小学生がいて、週3回の米飯給食であるとすると、児童1人当たり年間約10kgの白米を食べる計算になりますので、玄米に換算すると、
10kg×5000人÷0.9=56t
年間約56tの玄米があればいいわけです。
では、JAが売り込みに学校にのり込むか…やはり、そこは各市町村の農政課を通じて(できれば、学校給食協議会等を作って)、話し合いの場を設けることが順番だと思います。
あとは、お米の価格です。そこはまず、栄養士さんが県学校給食会から、現在いくらで仕入れているかを聞いてみましょう。補助金が無くなったので、驚くような安さではないと思います。
ところで、福岡県では平成12年の米飯給食への補助金廃止を見越して、県学校給食会が県農政部や教育委員会等に呼びかけて、県単事業を平成10年度に作りました。県産米「夢つくし」を使えば、玄米60kg当たり500円の補助金を出すというものです。しかし、この制度では県産米ではありますが、各産地のお米がブレンドされ、産地を指定することができませんでした。また、「夢つくし」を作ってない産地では、例えば「ヒノヒカリ」を使いたいといえば補助金はつきません。つまり、地元市町村のお米を食べることができない仕組みになっています。
そこで、古賀市では市長ががんばって、平成13年、県下で初めて「古賀市方式」(資料2)で地元米を米飯給食に使うようになりました。それは、今までとまったく同じ手続きなのですが、ただ精米時に「単独精米」してもらえるようにしたのです。その方法で、平成14年には粕屋町、新宮町、前原市、二丈町、志摩町が始めました。ぜひ、地元JAが中心となって、同じ方法で挑戦してみて下さい。
(2)地元の野菜・果実を学校給食に! 〜直販所と学校給食を結ぶ〜
野菜・果実は、お米に比べて保存がきかないものが多いので、注文から配達が結構大変です。
また、学校給食の調理方法によっても取り組み安さがが違います。自校方式の方が、センター方式よりも断然取り組みやすいようです。なぜなら、センター方式では一度に大量の食材が必要ですし、しかも規格の大きな物がそろっていなければなりません。自校方式であれば、食材が少量ですし、規格は栄養士さんとの相談で多少無理がききますから。
さて、栄養士さんから、「地元農産物を使いたくて、地元のJAに相談に行ったけれど断られた」という声をよく聞きました。JAは共販体制が主流ですし、そんな細かい対応が現実的に難しいためです。では、どうすればいいでしょう?
最近注目しているのは、農産物直販所です。特に、常設で開いている直販所がいいです。安定供給と豊富な品揃え…まさに学校給食にぴったりです。
では、実践編です。管内の宗像市の事例とこれからの課題を紹介します。
宗像市は、平成10年度より小学校の学校給食を「センター方式」から「自校方式」へ、1年に1〜2校づつ戻している、全国でも注目されている自治体です。それをきっかけに、できるだけ地元農産物を子ども達に食べさせようと、教育委員会が農産物直販所「かのこの里」と協力し合って県内でもトップクラスの地場産自給率を成功させています。
【しくみ】
まず、しくみは下図のとおりです。
@毎月15日に、翌月に供給可能な野菜の一覧 表を各学校にFAXする。
A毎月20日頃、各小学校の栄養士より献立表 に基づいて、かのこの里に注文書がFAXされ る。それを受けて22日に、かのこの里内の学校 給食委員会で、翌月の日別の生産者割り当て を決定する。
B毎朝7時、生産者の持ってきた野菜等から、 かのこの里の店長が各小学校別に仕分けし、 それを組合員が手分けして各小学校へ配達。
Cかのこの里から、毎月最後の運搬日に各小 学校へ請求書を持参する。
D翌月10日までに、各小学校からかのこの里 へ代金が振り込まれ、かのこの里から各農家へ 代金が渡される。
【価格】
価格については、大同青果市場の1週間前の中値(平均価格)を使い、なるべく時勢に応じるようにしています。この価格に対して、かのこの里側では安いと感じているようですが、意外にも栄養士側は高いと感じているようです。なぜかというと、今まで多くを注文してきた県学校給食会の価格が大変安かった(大量仕入れのため)ためです。なんといっても、1食200円前後で作っているのですから、栄養士の方がいかに苦労しているかが分かります。
【規格】
規格の取り決めは特にないようですが、かのこの里側で調理しやすいように大きめの物をそろえて、出荷しています。
【定例会議】
栄養士と生産者の会議については、初年目は毎月1回行っていたようですが、2年目以降は、慣れてきたという理由で1学期に1回に減っています。
しかし、毎年新しく自校式になる小学校の栄養士は、すべて初めての経験となります。また、野菜の出来や来月以降にでてくる旬の野菜、たまにはその野菜にあった地元郷土料理を一緒に食べたり、畑を訪ねたりする情報交換が必要です。その意味で、栄養士(できれば調理員さんも)と生産者の定例会はとても大切です。些細な心のすれ違いが子どもたちのための学校給食を崩してしまうことも他市町村で実際に起こっています。
ぜひ、月1回の定例会議を復活させたいものです。
【運搬】
運搬はかのこの里で行っています。しかし、運搬は意外と大変です。その理由は、
@小学校への搬入時間が限られている(8時半 〜9時)ため、1人で2校が限界であること。
A数量がキャベツ1個でも100個でも同じ時間 がかかるため、取扱量が少ないと運賃コストが 高くつくこと。
などです。
実際、現在の小学校からの代金ではかのこの里の運賃がでないため、実際にはかのこの里の利益から生産者に運賃を支払っています。
長く続けていくには、片方に負担を強いてはだめです。想いだけで続けていくのはとても難しいからです。どうすればいいでしょうか?例えば、
@は、もし前日の夕方に搬入できるならば、随分と楽になります。地元農産物は前日に納入しても、収穫してから食べるまでに1日しかたっていないのです。しかし、市場や県学校給食会を通した農産物は、3〜5日はたっているのです。ストックできる大型の冷蔵庫の設置等の検討が必要です。
Aは、できるだけ取扱品目を増やす努力が必 要です。たとえば、3月の注文計画を見るとホー レン草が1日もありませんでした。しかし、かの この里に行くとホーレン草があふれるほど出て います。ホーレン草は冬から早春にかけてが 「旬」だからです。現在は、栄養士さんが先に献 立表を作り、その材料を毎月送られてくるかの この里の一覧表から選ぶ…というしくみになって いるためです。だから、使用される野菜がまだ まだ限られているようです。ですから、生産者側 から年間の供給可能品目を月別にあらかじめ 知らせて、それに合わせて献立表を作ってもら う…というしくみに変えていくことが大切です。取扱量が増えていけば、運賃コストが随分と安くなります。
(3)地元の加工食品を学校給食に!
〜地元加工メーカーと学校給食を結ぶ〜
宗像地区は県内でも有数の大豆産地です。ところが、調べてみると地元大豆は地元でほとんど食べられていないことがわかりました。地元加工メーカーが地元大豆を使っていないからです。
そこで、加工メーカーの方たちへ呼びかけ、平成12年11月に「大豆畑交流会」を行い、宗像大豆の畑の様子と共同乾燥調製施設を見学してもらい、JAむなかたとの意見交流会の場を作りました。
それがきっかけとなって、『宗像育ちのお豆腐』と『宗像育ちのお醤油』の2つのプロジェクトができました。推進母体は、宗像地区農業振興連絡協議会(JA、市町村、普及センターで組織)の域内流通部会で、JAむなかた大豆部会と一緒に「大豆の地産地消」に取り組んでいます。
おかげさまで、地元4メーカーに作ってもらっている『宗像育ちのお豆腐』は「甘くて、おいしい!」と評判で、地元直販所を中心に、年間60tの大豆を消費しています。
また、地元で唯一の造り醤油屋「マルヨシ醤油」(玄海町)で作ってもらっている『宗像育ちのお醤油』は大豆畑1坪オーナー制で販売しています。この制度は、1口1000円で大豆畑1坪のオーナーになってもらい、1年後の11月に900mlのお醤油2本プレゼントというものです。13年度は3000坪用意したところほぼ完売。平成14年11月に初出荷となります。
これらの他に、『宗像育ちのお味噌』『宗像育ちの牛乳』もあわせて、学校給食で子どもたちに食べてもらうよう計画中です。
3 「物の交流」だけでなく、「心の交流」もセットで! 〜給食交流会のすすめ〜
昨年、宗像市では3つの小学校で給食交流会を行いました。給食時間に、生産者であるかのこの里から20名ほど参加し、班ごとに1名ずつ入って一緒にお話をしながら給食を食べるといったほんとに簡単な交流会です。
しかし、子どもたちには大変な驚きだったようです。例えば、「このスープの深ネギはね、おばちゃんの畑でとれたとよ!」と話しかけたとたん、子どもたちは必死にスープの中から深ネギを捜します。そして、「あった、あったよ。おばちゃん!」と誇らしげにおばちゃんに見せる子どもたち。今まで、子どもたちには、目の前にある野菜は単なる食べ物でしかなかったのです。ところが、かのこの里のおばちゃんに出会ってお話をしたことで、野菜の裏側にある物語が、パーーッと頭の中に焼き付いたのだと思います。そして、将来どんな食べ物に対してもこんな風に考えるようになったのではないでしょうか…「これ、誰が作ったんだろう?」って。
意識的にそう思えるようになることで、地元の農業への愛着を深めていくのです。そして、将来きっと地元農業の応援団になってくれると確信しています。 学校給食は『教育』です。教育とは、伝える作業です。しかし、ただ学校給食に地元の食材を使うだけでは、なかなか子どもたちの心へは伝わりません。伝えるしかけをしていく…それが、給食交流会であると思います。ぜひ、栄養士さんや先生と協力し合って、色々な形で子どもとの交流の場を創ってほしいと思います。
地元の子どもたちの未来のために…、そして地元の農業の未来のために。
(資料1)
◇学校給食の「地元産自給率」
(粕屋・宗像地域:平成11年度)
市町村名 |
およびセンター名 |
調理方式 |
学校給食の自給率 |
||
地元産 |
県産 |
国産 |
|||
A市 |
A市学校給食共同調理場 |
センター式 |
2.7 % |
16.9 % |
76.4 % |
B町 |
B町学校給食センター |
センター式 |
0.0 |
54.4 |
83.4 |
C町 |
C小学校 |
自校式 |
8.7 |
70.4 |
81.6 |
D町 |
D小学校 |
自校式 |
0.0 |
55.9 |
82.0 |
E町 |
E中央小学校 |
自校式 |
0.0 |
61.1 |
85.6 |
F市 |
F市学校給食センター |
センター式 |
0.2 |
57.8 |
84.9 |
〃 |
F小学校 |
自校式 |
23.4 |
64.2 |
85.5 |
G町 |
G小学校 |
自校式 |
0.0 |
57.2 |
83.6 |
H町 |
H東小学校 |
自校式 |
3.7 |
60.9 |
89.4 |
I村 |
I小学校 |
自校式 |
0.0 |
66.7 |
90.9 |
(資料2)
米飯給食に地元のお米を!
〜地元米を使うための「古賀市方式」〜
1 従来の学校給食用米の流れ
福岡県内 農家 |
各JAカントリーエレベータ (集出荷) |
JAふくれんライスセンター (ブレンド・精米) |
古賀市内 小中学校 |
|||
2 古賀市方式のお米の流れ
古賀市内 農家 |
JA粕屋新原低 温倉庫(集出荷) |
JAふくれんライスセンター (単独精米) |
古賀市内 小中学校 |
|||
◎1と2の相違点
(1)JAふくれんライスセンターで、他地区とブレンドせずに単独精米するので、地元のお米を学校給食に使える。
(2)今までと同じ流通ルート(県学校給食会を利用)であるため、手続き、補助金および流通コストは変わらない。
(3)ただし、県産米「夢つくし」の県下一斉の取り組みの一環として位置づけされているため、胚芽米にしやすい「ヒノヒカリ」等他品種は使えない。